仙台の奥座敷、仙山線で辿り着く「名湯の核心」 #
東北の温泉巡りにおいて、仙台駅を起点とする作並温泉(さくなみおんせん)は、私の「新幹線+α」のアクセス哲学において最も軽やかな選択肢の一つだ。山形新幹線の旅が「雪国への没入」だとするなら、仙山線に揺られて向かう作並は、都市の喧騒から一気に深い緑の峡谷へと飛び込む「鮮やかな転換」である。
今回は宿泊ではなく、この地の象徴とも言える「岩松旅館」の天然岩風呂を日帰りで堪能することに決めた。目的はただ一つ、この地が誇る究極の湯、足元自噴泉だ。
階段を下り、広瀬川の鼓動に近づく「潜行」の儀式 #
岩松旅館の玄関をくぐり、浴場へと向かう。ここでの体験は、他の温泉宿とは一線を画す。 木造建築特有の情緒ある通路、そして川沿いに向かって延々と続く長い階段。一段下りるごとに、建物が持つ歴史の匂いと、広瀬川のせせらぎが濃くなっていく。この「川の目線」へと潜り込んでいくワクワク感は、日帰り利用であっても全く色褪せることはない。
辿り着いた先にあるのは、渓流のすぐそばに設えられた四つの岩風呂だ。 湯船の底から直接お湯が湧き出す「足元自噴」。空気に触れる前の、生まれたての源泉が身体を包み込む感覚は、温泉ファンにとって至福の瞬間だ。川音を間近に聞きながら、野趣溢れる露天風呂で岩に背を預ける。そこには、建物の重厚な歴史と自然の荒々しさが混ざり合った、圧倒的な解放感があった。
また、岩松旅館は歴史ある温泉宿ということもあり、館内に飾られた協定看板の数もかなり多かった。

ニッカウヰスキー宮城峡への憧憬――余市の記憶とともに #
作並を訪れる際、温泉と並んで外せないのが『ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所』の存在だ。 かつて訪れた北海道の余市蒸溜所での体験は、私にとって最高のものだった。重厚で力強い「石炭直火蒸溜」の余市に対し、この作並の地にある宮城峡は、ふたつの川が交わる湿潤な冷気の中で、華やかで柔らかな原酒を育むという。
今回はスケジュールの都合で立ち寄ることが叶わなかったが、温泉街に漂う清涼な空気を感じるほどに、宮城峡のウイスキーが持つであろう芳醇な薫りへの想像が膨らむ。余市のあの素晴らしい体験を知っているからこそ、作並の湯で身体を温めた後に、宮城峡の琥珀色の液体を喉に流し込む――そんな「至福の梯子」を完遂する再訪への誓いが、旅の余韻をより深いものにした。
総括:日帰りでも刻まれる、作並の本質 #
宿泊をせずとも、岩松旅館のあの階段を下り、足元自噴の湯に浸かったという事実は、作並の本質を捉えたという確信を私に与えてくれた。 山形の個性豊かな名湯を巡ってきた旅の途中で立ち寄った、仙台の奥座敷。そこには、都市近郊とは思えないほどの深い峡谷の静寂と、湧き出し続ける湯の生命力が息づいていた。
ウイスキーの聖地を望みながら、川のせせらぎと一つになる。作並での日帰り湯は、次なる「宮城峡への旅」を約束する、豊穣な寄り道であった。