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昭和レトロな温泉体験——鈍川温泉(愛媛県今治市)

鈍川温泉に訪問する前、関西からのロングドライブにて道後温泉を訪問していた。道後温泉のある松山から、帰路で今治方面へ抜ける道中、「鈍川温泉」の看板が目に留まった。そういえば、鈍川温泉は、温泉むすめのキャラクターがいたということ、以前に愛媛県出身の友人から聞いていたことを思い出し、鈍川温泉の日帰り温泉施設『鈍川せせらぎ交流館』へと立ち寄った。

昭和レトロが色濃く残る施設 #

せせらぎ交流館は、地域密着型の日帰り温泉施設である。外観こそ素朴であるものの、館内に入ると昭和レトロ感満載の空間が広がっていた。壁材や照明、案内看板に至るまで、どこか懐かしい雰囲気を醸し出していた。

2階には家庭用水槽をいくつも並べた淡水魚のミニ水族館があり、メダカなどが展示されていたようである。町の交流施設らしい手作り感があり、大規模観光地のような派手さはなかったが、その分落ち着きが感じられた。

食堂もまた、昭和の終わりから平成初期にかけての公共施設や、高速道路のパーキングエリアを思わせる雰囲気であった。筆者はこのレトロさに、むしろ温かみを感じた。

温泉は「普通」で、それが良い #

肝心の温泉については、泉質の細かい印象は記憶が薄いものの、ごく一般的な日帰り温泉という印象を受けた。湯治場のような特徴や強烈な個性は感じられなかったが、逆にそれが「地元のための温泉」という本質をよく表しているようにも思えた。

実際、愛媛出身の友人も「子どもの頃に行った、普通のレトロな温泉施設だぞ?わざわざ他県から来るところじゃない」と語っていた。筆者自身も同感であった。

だが、それを否定する理由は存在しない #

確かに、愛媛県には道後温泉という全国区の名湯がある。鈍川温泉はその陰に隠れがちである。しかし、観光地としての派手さはなくても、地元住民に寄り添い、週末にふらっと立ち寄れる温泉の存在は、地域の文化として重要である。

旅行者にとっても、旅の中継地点として一服するにはちょうど良い温泉である。公共交通機関では訪れにくい立地にあるが、車で移動する旅の途中であれば、見つけた看板に誘われてふらりと入ってみることもできる。そのような温泉との出会い方には独自の良さがある。

鈍川温泉・せせらぎ交流館は、「わざわざ行く」というよりも「たまたま寄って良かった」と思えるタイプの温泉施設である。

必ずしも全国区で、観光化が進んだ温泉街だけが良いとは思えない。むしろ観光客が少ない温泉街の方が、地元客に寄り添ってきた歴史を持っていることが多い。鈍川温泉も、そうした温泉地の一つであると筆者は感じている。