河原を掘ると温泉が湧く——川湯温泉(和歌山県田辺市)
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和歌山県田辺市にある川湯温泉は、あの有名な『仙人風呂』の存在で知られる温泉地だ。筆者は今回、龍神温泉に一泊した翌日、十津川温泉へと向かう帰路の途中に、この川湯温泉へ立ち寄った。利用したのは『川湯温泉 公衆浴場』。仙人風呂のある河原のすぐ目の前に位置する、昔ながらの共同浴場だ。
昔ながらの銭湯のような温泉施設 #
公衆浴場の建物は、いかにも地元の人々に親しまれていそうな素朴なつくり。受付にいたのは気さくなおばちゃんで、施設全体もまるで昭和の銭湯を彷彿とさせる雰囲気だった。入浴料はわずか300円。脱衣所やロッカーなども必要最低限といった印象で、観光客向けに過度に整備されたものではない。そこがまた良い。
浴室はコンパクトで、湯船は数人入ればいっぱいになる程度の広さ。お湯の匂いや肌ざわりまでは記憶が曖昧だが、その狭さゆえの親密さと、湯けむりの向こうに感じる河原の存在が印象に残っている。
河原と一体化した風景 #
この浴場の最大の特徴は、仙人風呂で知られる河原が、目の前に広がっていることだろう。脱衣所を出て少し歩けば、すぐに川の流れと、その河原に湧く温泉が見えてくる。訪問時には、水着を準備して仙人風呂に入る外国人観光客の姿が目に入った。まるで海外の温泉リゾートのような不思議な風景だった。
筆者自身は水着の用意がなかったため入浴はしなかったが、いつかはあの仙人風呂にも入りたいという思いを強くした。
温泉街というより湯治場の風情 #
周囲には小さな食事処もあったように思うが、訪問時は朝早かったためか、営業している様子はなかった。そもそも川湯温泉の温泉街は、いわゆる観光地のように栄えているわけではなく、こぢんまりとした印象だ。散策して回るほどの広さはなく、どこか湯治場的な、静けさを湛えた空間である。
魅力は“静けさと景観” #
川湯温泉の魅力は何かと問われれば、やはり「河原と温泉が一体になっている景観」、そして「素朴で静かな雰囲気」だと答えたい。観光地としての賑わいは控えめだが、川のせせらぎと温泉の湯けむりが共存する風景は、なにものにも代えがたい価値がある。
あえて派手さを求めず、素のままの温泉を楽しむ──そんな旅のひとときに、川湯温泉はぴったりの場所だ。