福島県いわき市にあるいわき湯本温泉(いわきゆもとおんせん)を訪問した。品川や上野から乗り換えなしでアクセスできる特急ひたちに乗り、その車窓を楽しみながら辿り着くいわき湯本駅は、ホームに降り立った瞬間から、駅構内に足湯があり、温泉が出迎えてくれる。日本三函の湯の一つに数えられるこの古湯に、私は何度も宿泊で訪れている。
高台から街を見守る、式内社「温泉神社」 #

温泉街の喧騒から少し離れ、階段を昇り詰めると『温泉神社』が鎮座している。 1,300年以上の歴史を持ち、延喜式神名帳にも名を連ねる式内社だ。この高台にある由緒正しき社殿に参拝し、そこから温泉街を見下ろすと、炭鉱の町として栄えた歴史と、湯と共に歩んできた街の重みが静かに伝わってくる。いわき湯本の旅において、この神社への参拝は欠かせない行程である。
温泉神社の境内には、温泉が湧いていた。このような風情も、温泉地に古くから鎮座する神社の醍醐味だろう。

共同浴場『さはこの湯』に漂う、生活と衛生の課題 #

しかし、街のシンボルである共同浴場『さはこの湯』を訪れると、観光客としては少々戸惑う現実に直面することになる。
浴室に入って目につくのは、並べられた無数のシャンプーやリンスだ。地元客による「取り置き」が常態化しており、中には身体を洗った後、私物を置いたまま湯船に浸かりに行く人々も多々見受けられる。洗い場が事実上「占有」されており、一見の観光客にとっては、空いている場所を使って良いのか判断がつかず、不便を感じざるを得ない。
さらに、この『さはこの湯』を巡っては深刻な事態も起きている。2025年10月、浴槽水から基準値を超えるレジオネラ菌が検出され、営業停止処分を受けてしまっている。
『古滝屋』での宿泊と夕食 #
宿泊したのは『古滝屋』(ふるたきや)という温泉宿である。老舗の温泉宿でありながら、ロビーに入ると、楽天トラベル等からの表彰盾が多く飾られていた。温泉の泉質は含硫黄-ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉であり、色は無色透明であった。

素泊まりかつ安めのプランで宿泊したため、少々手狭な部屋に案内された。これくらいでも温泉に入り寝るだけなら充分である。

食事については素泊まりで予約していたため、いわゆる旅館食は無かったが、古滝屋の館内には『お宿ごはん つだや』という料理店が入っており、そこで飛び入りで夕食を頂くことが出来た。頼んだのは海鮮丼である。海が近いこともあり、美味しく頂けた。
総括:歴史の重みと、生々しい日常の狭間で #
素晴らしい宿のホスピタリティと、温泉神社の荘厳な静寂。その一方で、共同浴場で見られた「生活の場」としての強すぎる占有意識と、露呈した衛生管理の不備。
いわき湯本は、1,300年続く歴史の誇りと、現代の公衆浴場が抱える生々しい課題が同居している。それらすべてを肌で感じることこそが、この街を何度も訪れ、見つめ続けてきた私の旅の記録である。
なお、同じ福島県にある岳温泉(だけおんせん)も訪問しており、訪問記事はこちらから。