住宅街に湧く関西最強の炭酸泉——花山温泉(和歌山県和歌山市)
目次
和歌山県和歌山市の静かな住宅街に佇む「花山温泉」。派手さはないが、知る人ぞ知る名湯で、温泉マニアの間では「関西最強の炭酸泉」とも評されている。筆者もこれまでに数回訪れており、いずれも日帰り入浴を楽しんできた。宿泊も可能な施設ではあるが、一人では宿泊できないのか、これまでに宿泊している人を見かけたことはない。
和歌山市駅から徒歩50分、偶然の出会い #
花山温泉へのアクセスは決して良くない。最寄りの和歌山駅・和歌山市駅からは離れており、筆者は和歌山市駅から徒歩で訪れたことがあるが、片道およそ50分もかかってしまった。正直に言っておすすめできるルートではない。
筆者が初めて訪れたのは、青春18きっぷで西日本から東京へ戻る途中、和歌山市に一泊することになり、温泉を探していたときに偶然見つけたのがきっかけだった。何の期待もなく訪れた温泉が、実は全国区レベルの名湯だったという発見に、運命的なものを感じた。
茶褐色の湯と析出物、源泉掛け流しの魅力 #
お湯の第一印象は「濃い」。茶褐色に濁った湯は重厚感があり、湯船の縁や床には長年の析出物が分厚くこびりついている。見るからに歴史と成分の濃さを感じさせる光景だ。泉質の力強さに圧倒された。
中でも感動したのが、加温されていない30℃台の源泉がそのまま掛け流されている浴槽の存在。体温よりもやや低いその湯にじっくり浸かっていると、身体の奥からゆっくりと整っていく感覚がある。この源泉風呂は非常に人気が高く、いつも数人が静かに浸かっている。
後から調べてみると、やはり温泉マニアの間でも「関西で一番の炭酸泉」と評価されていることがわかった。仏生山温泉を偶然引き当てた経験もあるが、自分は温泉運に恵まれていると感じている。
館内の雰囲気と交互浴のすすめ #
施設全体としては、どちらかといえばレトロな造りである。ただし、清掃が行き届いており、古さよりも温かみを感じさせる。周囲の環境も住宅街の中で落ち着いており、地元の人に長く愛されてきた温泉なのだろう。
休憩スペースは畳敷きで、やや手狭ではあるが、平日の昼間に訪れた際には畳の上で横になってのんびりとくつろげた。露天風呂も一応備わっているが、数人入ればいっぱいになるほどのサイズ。ただし、この温泉の魅力は露天風呂ではなく、析出物だらけの炭酸泉と、その源泉浴槽にあるため、特に不満は感じなかった。
興味深かったのは、館内に掲示されていた「ぬるい浴槽と熱い浴槽を交互に入る」という入浴法のすすめ。いわば“ぬる湯⇔熱湯交互浴”だ。昨今のサウナブームでは、高温サウナと冷水浴の交互利用が流行っているが、心臓への負担が大きいとされている。筆者自身も一度だけ試してみたが、あまりの負荷に驚いて以降避けている。
それに対し、花山温泉での交互浴はぬる湯が30℃台、熱湯が40℃台と比較的穏やかで、身体への負担も小さい。それでいて、身体の内部からしっかりと温冷の刺激を感じられる、理にかなった方法だと感じた。源泉の温度が適度に低い場所でしか成立しにくいスタイルなので、今後もっと注目されてもよいのではないかと思う。
本物の温泉を求める人へ #
花山温泉は、「温泉街を散策したい」「宿でゆっくり過ごしたい」といった旅情を求める人には不向きかもしれない。アクセスの悪さ、宿泊のしづらさなど、いわゆる温泉旅行としてのハードルは高い。
だが、泉質そのものを重視し、“本物の温泉”を求める人には全力でおすすめしたい。特に和歌山市周辺に用事がある人は、ぜひ足を運んでみてほしいし、筆者は関東からわざわざ訪れる価値も十分にあると感じている。
茶褐色の湯、重厚な析出物、加温なし源泉の掛け流し、交互浴のすすめ——ここには、他の温泉では得難い唯一無二の体験がある。
“効く”温泉を探している人にとって、花山温泉はきっと記憶に残る名湯となるはずだ。