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豪華な施設とまさかの運び湯——鳥羽温泉(三重県鳥羽市)

鳥羽温泉──名前だけ聞けば、紀伊半島の穏やかな海と共に、良質な温泉が湧いているのだろうと想像する。しかし、今回の訪問で筆者が感じたのは、温泉地というものの在り方を考えさせられる体験だった。

きっかけは温泉むすめ、立ち寄りは紀伊半島ドライブ旅 #

筆者が鳥羽温泉を訪れたのは、「温泉むすめ」プロジェクトで存在を知ったのがきっかけだった。三重県をドライブ中、ちょうど良い距離感で鳥羽を通ることもあり、軽い気持ちで立ち寄ることにした。

観光地としての下調べは特にしていなかったが、「鳥羽温泉」という名前に惹かれ、どんな湯に出会えるのかと期待が高まっていた。

高級旅館「戸田家」の日帰り温泉体験 #

実際に入浴したのは、鳥羽駅近くの老舗旅館『戸田家』。日帰り温泉の利用で2,000円という価格は、筆者のこれまでの温泉経験の中でも最も高額で、記録更新となった。

だが、施設は非常に豪華で、湯船の種類も豊富。特筆すべきは、日帰り客にも開放された貸し切り風呂。多くの宿では予約制・時間制限ありが一般的だが、ここでは時間無制限での利用が可能という、サービス精神に富んだ内容だった。

都内の高級スパ施設に慣れている人であれば「これで2,000円ならむしろ安い」と感じるかもしれない。

驚きの温泉分析書──鳥羽温泉の湯ではなかった!? #

立派な施設に満足しながら脱衣所に掲げられた温泉分析書をふと見ると、思わぬ事実が判明した。なんと、源泉名が『榊原温泉』と記載されていたのだ。

榊原温泉は、確かに三重県に存在するが、鳥羽からはかなり離れており、直接の引き湯は到底できない距離。つまり、タンクローリーなどで運んできているということになる。後に調べてみると、鳥羽温泉と呼ばれるエリアには、こうした他の温泉地からの運び湯を使用する施設が多いという。

温泉ファンとして、これはショックだった。もちろん、湯そのものが悪いわけではない。しかし、“鳥羽温泉"という名前で期待して訪れる客に対して、実は他の温泉地の湯だというのは、正直なところ誠実とは言いがたい。

観光は控えめ、海鮮定食が救い #

観光は特にしておらず、駅前で海鮮定食を食べた程度。鳥羽といえば海の幸が名物だが、温泉でやや肩透かしを食らった分、この食事はささやかな救いとなった。

結論──下調べの重要性、そして温泉地の名を掲げる責任 #

今回の体験で学んだのは、やはり下調べの大切さである。名前だけで温泉地を判断せず、源泉情報や実際の泉質にも目を向ける必要がある。

そして、やや厳しい言い方になるが、温泉地としての看板を掲げる以上、自前の湯であることを原則とするべきではないだろうか。温泉地の名に惹かれてやってくる旅人に対して、それが全く別の土地の湯であるというのは、期待を裏切る行為にもなり得る。

施設のクオリティやサービス精神には大いに感服した一方で、温泉の本質とは何かを考えさせられる、複雑な訪問となった。