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酷道に囲まれた日本三大美人の湯——龍神温泉(和歌山県田辺市)

自家用車でこそ辿り着ける、紀伊半島の秘湯 #

紀伊半島の山あいにひっそりと佇む『龍神温泉』。日本三美人の湯に数えられるそのとろとろの泉質と、静寂に包まれた温泉街の佇まいは、訪れた者の心と肌を同時に癒やしてくれる。

筆者が龍神温泉を初めて訪れたのは昨年である。関西在住となり、自家用車を持ったことで、これまで縁遠かった温泉地がぐっと身近な存在となった。それまで東京に住んでいた頃は、どちらかといえば東北の静かな温泉地を好んでいた。観光地化された賑やかな街より、山奥でひっそりと湧く湯に心を奪われる性分だ。そんな筆者にとって、紀伊半島という地は理想的な環境だった。

とろとろの美肌の湯と、静寂の宿 #

龍神温泉を選んだ最大の理由は、その泉質にある。ナトリウム炭酸水素塩泉に分類されるその湯は、浸かった瞬間、肌を優しく包み込むようなとろみが感じられ、日本三美人の湯と称されるのも納得の質感である。わたしが泊まったのは『季楽里龍神』という温泉宿だが、1度目の宿泊でその魅力に惹かれ、同じ宿に1年で2度目も宿泊した。宿の格式も高く、風格のある和の空間が旅情を誘う。もちろん、露天風呂からは清流と山々の景色が望め、非日常のひとときを演出してくれる。

川を眺める日帰り入浴もまた魅力 #

さらに、龍神温泉には日帰り温泉施設『龍神温泉元湯』もあり、こちらも川沿いに設けられた露天風呂が魅力的である。自然の音に耳を傾けながら湯に浸かる時間は、旅館の宿泊とはまた違った趣がある。泉質はやはりナトリウム炭酸水素塩泉で、源泉掛け流しだ。ホームページを見ると、「元湯」の名称の通り、龍神温泉の湯元であり、「随一源泉掛け流し」を体感できると記載があるから、龍神温泉を訪れた人は必ず寄って欲しい。

アクセスは慎重に——紀伊半島の「酷道」事情 #

アクセスについて触れておこう。紀伊半島は本州でもっともアクセスが難しい地域のひとつといわれる。実際、東京から公共交通機関で訪れるのは非常に時間がかかる。しかし、関西在住かつ自家用車があれば、話は変わってくる。大阪から和歌山方面への高速道路は整備されており、あとは山道を抜けていくのみ。ただしここで注意すべきは「酷道」の存在だ。紀伊半島には国道ながらも極端に道幅が狭く、急カーブや崖沿いを走るルートが多数ある。道を誤れば、旅がスリリングな冒険に変わってしまう。

筆者が2度目の訪問をした際には、直前に土砂崩れで一部通行止めになるというアクシデントがあった。宿からは丁寧な案内が届き、代替ルートが示されて無事に辿り着くことができたが、こうした道路事情も紀伊半島ならでは。訪問前には必ず道路情報をチェックしておくことをおすすめしたい。

龍神温泉をすすめたい人、そして再訪への想い #

龍神温泉は、

  • 騒がしい温泉街が苦手な人
  • 泉質にこだわる人
  • 美肌を求める人
  • ドライブ好きの関西在住者
  • 人混みを避けたい旅人

すべてにおすすめできる温泉地だ。派手な観光要素はないかもしれないが、その分だけ温泉そのものの質と自然との調和が際立っている。

再訪するなら、紅葉の時期や雪景色の龍神温泉も体験してみたい。静けさの中で湯に浸かり、自然と一体化するような感覚を、もっと多くの人に味わってほしいと願っている。