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屋根なし露天で味わう唯一無二の解放感——上湯温泉(奈良県十津川村)

奈良県・十津川村には、三つの温泉地が点在している。観光地として有名な十津川温泉、地元感あふれる湯泉地(とうせんじ)温泉、そして今回紹介する、山奥の素朴な秘湯——上湯温泉である。

この日は湯泉地温泉で日帰り入浴を楽しんだ後、帰路の途中にもう一湯ということで、上湯温泉 川原の湯に立ち寄った。以前から名前は聞いていたが、実際に訪れてみると想像以上の体験だった。

海の家のような仮設受付、その奥に露天風呂 #

川原の湯は、観光施設というよりも、地元で維持・運営されている素朴な施設だ。到着してまず目に入るのは、簡易な受付所。プレハブともテントともつかない造りで、まるで海の家のような雰囲気が漂っている。

ここで入浴料を支払い、細い通路を抜けると、川沿いに露天風呂がぽつんと現れる。この簡素さこそが、川原の湯の本質であり魅力でもある。

熱めの湯と、場所によって違う湯温 #

湯船に足を入れると、かなり熱い。体感としては44℃近くあるのではないかという温度で、長時間浸かるのは難しい。ただし、面白いのは湯船内の場所によって温度が異なること。

中央や手前側は比較的ぬるく、なんとか入れる程度だったが、奥の方はさらに熱く、そこに平然と浸かっている常連客らしき人の姿を見て驚かされた。おそらく源泉の流入口が奥側にあるのだろう。

屋根なし、川沿い、圧倒的な解放感 #

ここで特筆すべきは、屋根がまったく無い露天風呂であるという点だ。多くの温泉施設では、露天といっても雨天に備えて屋根付きになっていることが多い。だが、ここ川原の湯には屋根がない。

その結果として得られるのが、圧倒的な開放感だ。すぐそばを川が流れており、視界を遮るものが何もない。これまで数々の露天風呂を体験してきた中でも、ここまで自然と一体化した感覚を味わえる場所は珍しい。まさに、唯一無二の野湯感覚である。

なお、雨天時は完全に濡れる構造になっているが、逆に言えば晴天時にこの風呂に浸かる幸福感は格別である。なお、女湯側には屋根があるらしいが、男湯には潔く何もない。

カランなし、でもそれでいい #

泉質はナトリウム-炭酸水素塩泉。もちろん源泉掛け流しである。いわゆるカラン(シャワーや洗い場)はないが、そもそもこういった秘湯にそれを求めるのは野暮だ。

むしろ、この手の湯にカランが設置されていると秘湯感が薄れてしまう。温泉マニアにとっては、むしろこの簡素さこそが“正解”である。

上湯温泉 川原の湯をおすすめしたい人 #

この温泉をおすすめしたいのは、自家用車で十津川を訪れた温泉好きな人だ。バスではアクセスが難しく、また施設自体も簡素なため、気軽な観光客にはややハードルが高いかもしれない。

だが、だからこそ、この湯に浸かる価値がある。地元に守られ、素朴で、自然と直結した空間での入浴は、何にも代えがたい体験となる。

次はぜひ、雪の季節や新緑の季節にも訪れてみたい。川原の湯は、自然と湯との境界が曖昧になる場所として、これからも多くの温泉好きの記憶に残り続けるだろう。