ケーブルカーで行く日本三大秘湯——祖谷温泉(徳島県三好市)
目次
サンライズ瀬戸+特急で辿り着いた“秘湯” #
年末、仕事納めを終えたその足で、筆者は寝台特急サンライズ瀬戸に乗った。目的地は、日本三大秘湯に数えられる徳島県・祖谷温泉。香川県で下車後、特急列車で大歩危駅まで向かい、朝9時頃には現地に到着した。
一般的にはアクセスが悪いとされる祖谷温泉だが、鉄道旅に慣れた“旅行オタク”にとってはむしろ快適なルートに感じられた。出発から翌朝の早い時間に現地入りできるのは、寝台列車ならではのメリットといえる。
ケーブルカーで川辺に降りる唯一無二の温泉体験 #
祖谷温泉の名物といえば、ケーブルカーでしかたどり着けない露天風呂。筆者もこれを目当てに訪問し、スマホで録画するほど楽しみにしていた。ケーブルカーでぐんぐんと谷底へ降りていく体験はまさに非日常で、到着した先には目の前に川が広がる露天風呂が待っていた。
ケーブルカーの車窓から見えたのは、驚くほど澄んだエメラルドグリーンの川。その透明感と色の美しさには心を奪われ、到着前からすでにこの地が“特別な場所”であることを確信した。
泉質そのものは良好で、湯の温度はやや熱め。長湯には少し我慢が必要だったが、東京からわざわざ訪れたという思いもあり、痩せ我慢でじっくりと湯を味わった。ちなみに、飯坂温泉や温泉津温泉元湯のような“激アツ湯”ほどではなく、じっくり浸かれる絶妙な熱さだった。
筆者が訪れた際の露天風呂はなんと貸し切り状態。他の入浴客はおらず、谷底の湯を独り占めにする贅沢なひとときとなった。川音と風の音だけが響くなか、湯に浸かる体験は時間の流れすら忘れさせてくれるものだった。
ただし、事前に見ていた写真では広々とした印象だった露天風呂も、実際には少し手狭に感じたのが正直なところ。それでも、ケーブルカーで降りていくという演出と、眼前の絶景がそのすべてを補って余りある体験だった。
バスでのアクセスと、ローカルスーパーの楽しみ #
大歩危駅からは路線バスで祖谷温泉へ向かった。乗客は筆者1人。日帰りで訪れる人は少ないのか、もしくはほとんどが自家用車やレンタカー利用なのかもしれない。
駅前では『歩危マート』という地元のスーパーにも立ち寄った。旅先でローカルなスーパーに立ち寄るのは、土地の日常に触れる小さな楽しみでもある。
湯上り後、再びケーブルカーで上がった先には、絶景を見渡せるベンチが設置されており、そこに腰掛けながら過ごす時間もまた格別だった。温泉だけでなく、その前後の空間設計までもが「秘湯」の価値を引き上げているように感じた。
温泉マニアとしての視点から #
筆者のように、すでに複数の川沿い露天風呂を経験している者にとっても、祖谷温泉は一線を画す存在だった。景観だけなら似た温泉地もあるが、ケーブルカーという移動体験が加わることで、唯一無二の訪問体験が完成している。
今度はぜひ宿泊して、時間帯による景色の移ろいや、湯とともに提供される地元の料理などもじっくり堪能したいと考えている。