福島県会津若松市にある東山温泉を訪問した。東京から新幹線で郡山へ、そこから磐越西線とバスを乗り継いで辿り着いた東山温泉は『向瀧』や『新滝』といった、「滝」を冠する名宿が軒を連ねる。私は高台に位置する『くつろぎ宿 千代滝』に宿泊したので、その体験を記す。
なお、同じ福島県にある飯坂温泉(いいざかおんせん)や磐梯熱海温泉(ばんだいあたみおんせん)も訪問しており、訪問記事はこちらから。
バイキングの概念を覆す、会津の「食」の底力 #

千代滝での滞在で、何より衝撃を受けたのは食事の質の高さであった。夕食・朝食ともにバイキング形式だが、そこにあるのは「食べ放題」という言葉から連想される大味な料理ではなかった。

特に夕食の天ぷらは、天ぷら専門店で供されるそれと遜色ない、卓越した揚げ上がりであった。美味しいバイキングとなると、ついつい食べ過ぎてしまうのが人情というもの。元々私は大食漢ではあるが、この日は2人前に近い量を食べてしまった。嬉しい悲鳴である。なお、夕食のメニューには、会津名物のソースカツ丼もあった。

朝食でいただいた鯖の焼き加減ひとつをとっても、職人の丁寧な仕事が透けて見えるような絶妙な塩梅であった。これまで数多くの宿に泊まってきたが、バイキングでここまで一点一点の料理に感動を覚えることは珍しい。会津の豊かな食文化の底力を、思いがけぬ形で突きつけられた思いだった。
水が醸す「地酒の迷宮」を往く #
会津若松は、言わずと知れた酒どころである。この地が育む「水」の良さは、食事だけでなく、当然ながら日本酒にも結実している。

夕食時から地酒の飲み比べに興じたが、それだけでは飽き足らず、夕食後は館内にある日本酒バー『地酒の館』へと足を運んだ。

会津の銘酒がずらりと並ぶその空間は、日本酒好きにとっては文字通りの聖地。澄んだ水から醸された酒は、どれも喉越しが良く、芳醇な香りが鼻を抜ける。
二つの「滝」を巡る贅沢 #
東山温泉千代滝の泉質はナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉で、色は無色透明である。宿泊した千代滝の展望露天風呂に加え、姉妹館である「新滝」の温泉も利用できるのは、この宿の大きな魅力だ。
高台から城下町を見下ろす開放感溢れる千代滝の湯と、川沿いの歴史の重みを感じさせる新滝の湯。東山温泉に数多く存在する「〇〇滝」という名の宿たち。その名称が示す通り、豊かな水と滝に育まれたこの地で、私はようやく心からの「くつろぎ」を取り戻すことができた。
総括:水と酒と情けの街 #
会津の人々の距離感は、かつて訪れた飯坂温泉の人々の温かさに通じるものがあった。 バイキングの料理に感動し、地酒の奥深さに酔いしれる。アクセスの良さに甘んじることなく、提供されるものの質を極限まで高めている千代滝での滞在は、「泊まってこそ分かる温泉地の価値」を再認識させてくれるものであった。
旨い飯と、旨い酒。それだけで、旅はこれほどまでに満たされる。会津・東山温泉は、心から再訪を願う、優しき水の都であった。