別府の街を歩けば、至る所から立ち上る湯煙が旅情を誘う。今回の旅の拠点は、情緒ある温泉宿……ではなく、あえて別府駅前のビジネスホテルを選んだ。利便性を優先した選択だったが、チェックイン時に手渡されたのは、近隣の公衆浴場への無料チケット。これこそが、街全体が温泉に浸かっている別府という土地の粋な歓迎なのだろう。
バスに揺られ、湯煙の聖地鉄輪へ #
駅前からバスに乗り込み、坂道を登っていく。車窓から見える風景が次第に白く霞み始めると、そこが別府観光のハイライト、鉄輪(かんなわ)エリアだ。

まずは定番の地獄めぐりへ。自然の驚異を目の当たりにする鮮やかな色彩の池を巡り、温泉の持つ圧倒的なエネルギーを五感で受け止める。観光客で賑わう地獄の熱気を肌で感じながら、私は鉄輪ならではの入浴へと足を向けた。
陶板浴とは違う、薬草と蒸気の洗礼 #

訪れたのは鉄輪むし湯。これまでスーパー銭湯などで陶板浴の経験はあったが、温泉の蒸気そのものを利用した蒸し湯は私にとって初体験だった。
小規模な入り口をくぐり、石畳の上に敷き詰められた薬草・石菖(せきしょう)の上に横たわる。じんわりと、しかし力強く身体の芯まで熱が浸透していく。陶板浴のような乾いた熱ではなく、温泉成分をたっぷり含んだ湿潤な熱気が、石菖の独特な香りと共に全身を包み込む。
数分もすれば、身体の中から絞り出されるような汗が止まらない。薬草の上に身を委ねるという原始的でありながら贅沢な時間は、現代のスパ施設では決して味わえない本物の温泉文化に触れた瞬間だった。
総括:自由なスタイルで楽しむ別府 #
ビジネスホテルに泊まり、公共交通機関を使い、地元の公衆浴場や伝統的な蒸し湯を巡る。贅を尽くした旅館での滞在も良いが、こうして自分の足で街の懐に飛び込む旅は、温泉地の日常と歴史をより身近に感じさせてくれる。
次はぜひ、今回体験しきれなかった鉄輪の食――地獄蒸し料理にも挑戦してみたい。